魚の鰭をよく観察すると、鰭膜を支える細長い構造が並んでいます。これらは鰭条(きじょう)と呼ばれ、その構造によって棘条(きょくじょう)や軟条(なんじょう)などに区別されます。
棘条と軟条の違いは、魚類の外部形態を理解するための基本であるとともに、鰭条数を記録し、種を比較・識別する際にも重要です。魚類の記載では、D1 VI、D2 I,8、A I,8のような表記が用いられることがあり、これらを読むためにも鰭条の構造を理解する必要があります。
本記事では、棘条と軟条の基本構造から、実際の魚体での位置、数え方、鰭条式の読み方までを図版を用いて整理します。さらに、ゴクラクハゼ、シロメバル、ハスを例に、分類群によって異なる鰭の構成についても見ていきます。
棘条と軟条は鰭を支える構造
魚類の鰭は、薄い鰭膜だけでできているわけではありません。鰭膜を支える複数の鰭条が並ぶことで、鰭全体の形が保たれています。
鰭条を観察すると、すべてが同じ構造ではないことが分かります。
代表的なものが、棘条(spine)と軟条(soft ray)です。
棘条
棘条は、一般に硬く、先端に向かって細くなる鰭条です。通常は分節を持たず、分枝しません。
魚体上では背鰭や臀鰭などで観察され、魚種によって本数や配置が異なります。
軟条
軟条は、分節を持つ鰭条です。軟条には分枝するものと分枝しないものがあり、鰭の位置や魚種によって形態が異なります。
したがって、「棘条は硬い、軟条は柔らかい」という感触だけで区別するのではなく、分節や分枝など鰭条そのものの構造を観察することが重要です。
実際の魚体ではどこにあるのか
棘条と軟条を理解したら、次に実際の魚体上で位置を確認します。
ここではヨシノボリ類を例とします。
ハゼ類の第1背鰭と第2背鰭
ハゼ類の背側には、第1背鰭と第2背鰭があります。
前方の第1背鰭と、その後方に位置する第2背鰭は互いに分離しているため、それぞれを独立して観察できます。
第1背鰭では棘条を、第2背鰭では棘条と軟条を区別して観察します。
このように、棘条と軟条を数える際には、まず「どの鰭を観察しているのか」を明確にする必要があります。
ルリヨシノボリ(Rhinogobius mizunoi)の雌雄比較図版。
Illustration © Fish Illustration Archive
棘条と軟条はどのように数えるのか
魚類の分類や記載では、鰭を構成する鰭条の本数が計数形質(meristic character)の一つとして扱われます。
単に鰭全体の本数を数えるのではなく、棘条と軟条を区別して記録することが重要です。
例えば第2背鰭に、
- 棘条が1本
- 軟条が8本
ある場合、両者を別々に記録します。
この区別が、後述するI,8のような鰭条式につながります。
数えるときに注意すること
鰭条を計数する場合には、鰭の基部から各鰭条の位置を確認し、隣接する鰭条を重複して数えないようにします。
軟条については、先端側で分枝している場合があります。分枝した先端をそれぞれ独立した鰭条として単純に数えるのではなく、基部との連続性を確認して鰭条を判別する必要があります。
また、実際の研究・同定では、対象となる分類群で採用されている計数方法や記載方法を確認することが重要です。
ヨシノボリの背鰭条数を示した外部形態図版。
Illustration © Fish Illustration Archive
ヨシノボリの背鰭条数を示した外部形態図版。
Illustration © Fish Illustration Archive
鰭条式の読み方
魚類の形態記載では、鰭の種類と鰭条数を簡潔に示すために記号を用いた表記が行われます。
代表的な記号には次のようなものがあります。
文献によって表記方法には差がありますが、一般に 棘条数をローマ数字、軟条数をアラビア数字で表す 方法があります。
例えば、
D1 VI
であれば、
- D1=第1背鰭
- VI=6棘
を意味します。
D2 I,8
であれば、
- D2=第2背鰭
- I=1棘
- 8=8軟条
という読み方になります。
同様に、
A I,8
であれば、臀鰭に1棘と8軟条があることを示します。
ただし、記号、区切り方、軟条の計数方法などには文献や分類群による違いがあります。実際に形態情報を利用するときは、対象となる文献で採用されている表記法と計数法を確認することが前提となります。
魚によって鰭の構成は異なる
棘条と軟条という基本的な観察単位を理解すると、異なる魚類の鰭を同じ視点から比較できるようになります。
ここでは、シロメバル、ハス、ゴクラクハゼを比較します。
シロメバル
シロメバルでは、背鰭前方の棘条部と、その後方の軟条部が連続した背鰭を形成しています。
外形としては一続きの背鰭に見えても、内部を構成する鰭条を見ることで、棘条部と軟条部を区別できます。
ゴクラクハゼ
ゴクラクハゼでは、第1背鰭と第2背鰭が分離しています。
そのため、第1背鰭と第2背鰭をそれぞれ独立して観察し、どの種類の鰭条から構成されているかを確認できます。
ハス
ハスの背鰭は軟条によって構成され、シロメバルやゴクラクハゼにみられるような真の棘条を持ちません。
この3種を比較すると、棘条と軟条の配置だけでなく、棘条の有無、背鰭の分離・連続、外形などにも分類群による違いがあることが分かります。
したがって、鰭の外形だけで判断するのではなく、鰭条の構造と構成を確認することが重要です。
シロメバル(Sebastes cheni)、ハス(Opsariichthys uncirostris)、ゴクラクハゼ(Rhinogobius similis)の背鰭構造を比較した魚類図版。
Illustration © Fish Illustration Archive
シロメバル(Sebastes cheni)、ハス(Opsariichthys uncirostris)、ゴクラクハゼ(Rhinogobius similis)の背鰭構造を比較した魚類図版。
Illustration © Fish Illustration Archive
鰭条数は魚類の識別にどう使われるのか
鰭条数を数える目的は、単に魚の構造を記録することだけではありません。
魚類の分類・識別では、鰭条数は鱗数、計測値、骨格形質、色彩・斑紋などとともに、種や分類群を比較するための形態情報として利用されます。
例えば、外観のよく似た魚でも、背鰭や臀鰭、胸鰭などの鰭条数を比較することで、識別のための情報を追加できます。
一方で、鰭条数だけで種を判断できるとは限りません。
近縁種間で計数値が重複する場合もあり、個体差や成長段階などを考慮する必要がある場合もあります。
そのため実際の識別では、
計数形質
鰭条数、鱗数など
計測形質
体長、体高、頭長など
外観形質
体形、鰭形状、色彩、斑紋など
といった複数の情報を組み合わせて検討します。
ヤイマヒラヨシノボリ(Rhinogobius yaima)の形質診断図版(DCP-002)。
Illustration © Fish Illustration Archive
棘条・軟条を見ることは、魚の形態を読む基本になる
魚類の鰭は、一見すると一枚の膜状の構造に見えます。しかし、その内部を見ると複数の鰭条によって支えられており、棘条と軟条では構造が異なります。
棘条と軟条を区別できるようになると、
どの鰭なのかを見る
→ 鰭条の構造を見分ける
→ 本数を数える
→ 鰭条式を読む
→ 他の魚と比較する
という順序で、魚類の外部形態をより具体的に読み取れるようになります。
シロメバル、ハス、ゴクラクハゼのように外形の異なる魚でも、鰭条という共通の観察単位を用いることで形態を比較できます。
さらに鰭条数は、他の計数形質・計測形質・外観形質と組み合わせることで、魚類の分類や識別を検討するための情報になります。
参考文献
- ・中坊徹次(編)(2013)『日本産魚類検索 全種の同定 第三版』全3巻.東海大学出版会.
- ・Hubbs, C. L., Lagler, K. F. & Smith, G. R. (2004). Fishes of the Great Lakes Region, Revised Edition. University of Michigan Press. https://doi.org/10.3998/mpub.17658
- ・Suzuki, T., Oseko, N., Kimura, S. & Shibukawa, K. (2020). Two new species of torrential gobies of the genus Rhinogobius from the Ryukyu Islands, Japan. Bulletin of the Kanagawa Prefectural Museum (Natural Science), 49, 7–28. https://doi.org/10.32225/bkpmnh.2020.49_7
- ・本村浩之(編)「日本産魚類全種リスト」鹿児島大学総合研究博物館.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html
- ・Fischer, W. & Whitehead, P. J. P. (eds.) (1974). FAO Species Identification Sheets for Fishery Purposes: Eastern Indian Ocean (Fishing Area 57) and Western Central Pacific (Fishing Area 71). FAO, Rome. https://www.fao.org/4/e9163e/e9163e00.htm
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